『千と千尋の神隠し』というRPG(ロールプレイングゲーム)
今回は『千と千尋の神隠し』について書きたいと思います。ジブリの名作ですね。
私も何度も観たことがありますが、劇場で上映しているということなので改めて鑑賞してきました。いやあ面白かった、今年で25になる成人男性が楽しんでしまった。
この記事はこんな人におススメ
@『千と千尋』を観たことがある人
@『千と千尋』をもう一度観ようかと思っている人
@『千と千尋』の面白さを説明したい人
結論
『千と千尋の神隠し』が面白い理由のひとつは、物語がRPGのような構成になっていること。ゲーミフィケーションという観点から『千と千尋』を見直してみると面白いかもしれません。
『千と千尋の神隠し』について
ここでは、『千と千尋の神隠し』について軽く触れた後、今回の記事で注目する作品の構成について書いていきます。記事の後半でもここで扱った内容を参照していきます。
作品について
正直いまさらな話かとは思いますが、『千と千尋』はどのような作品かということについて。まずは大まかな話について。
引越し先へと向かっていた少女:千尋(ちひろ)とその両親は、その道中に人ならざるものの暮らす異界へと迷い込んでしまった。そこで過ごすうちに両親は豚へと姿を変えられてしまう。
戸惑う千尋は少年:ハクと出会い、彼のはからいによって魔女が営む湯屋(温泉旅館のようなもの)で働くこととなる。果たして千尋は両親と共にもとの世界へ帰ることができるのだろうか。
みたいなくらいに考えて貰えればいいと思います。
『千と千尋』はスタジオジブリの宮崎駿監督に手がけられ2001年7月に公開された。日本映画の歴代興行収入では『タイタニック』『アナと雪の女王』などを抑えトップに君臨し続けています。
その国民的な愛されぶりからか2020年現在、「一生に一度は、映画館でジブリを。」とのキャッチコピーで他ジブリ3作品とともに劇場で上映されています。
以降はもう映画の内容について話してしまうため、『千と千尋』をネタバレなしで観たい方はこのあたりでブラウザバックしてください。
小さな起承転結を繰り返すストーリー
『千と千尋』はその構成が「起・承・転・結」ではなく、小さなお話の集まりだと考えられるのです。
便宜的に区分けしてみると
1.「はじめ~湯婆婆に会い契約をするまで」
2.「油屋での働き、汚れた川の神まで」
3.「銭婆婆のもとからハクが帰ってきて契約のハンコを返す決断をするまで」
4.「カオナシが暴れたりなんだり」
5.「銭婆婆のもとへいくところ~ハクの真名」
6.「油屋に戻る~エンディング」
このようになるでしょう。『千と千尋』の内容を思い返してみれば、なるほどそれぞれの物語で(起承)転結が存在していることが伺えます。
全編を通して意味のあるアイテム
『千と千尋』には上記のような小さなストーリーがあるのに加え、そのストーリーで得られた情報が後のストーリーに関係する、いわば「伏線」のようなものが存在しています。
たとえば、
2.で川の神から貰った苦団子は
3.でハクに契約のハンコを吐き出させる4.でカオナシに食べさせる
といった用途で用いられるが、
それ以前に
千尋が団子をひとかじりしてとうてい食べられないような仕草
豚に変えられてしまった両親に食べさせようと畜舎を訪れる
など「一体なんの用途に用いるのだろう」といった印象を観客に与えており、それぞれの場面で効果があるだろうことを示唆する伏線となっています。
また、2.の前に千がハクと共に豚の畜舎を訪れる。ここでは
「ハクが飛び去る姿が後の川の神とそっくりである」は5.、「そのとき千は両親を見ている、苦団子を持っていった際は両親がいないことがわかる」は6.、へと後のストーリーの伏線となる情報を散らばせています。
それでいて大切なのが、「2.での情報は2.の内では特になんの意味も無い」点です。
苦団子というアイテム
汚れた川の神の飛び去る姿
は2.の段階では「なんとなくそういうもの」として観客に受け入れられます。
『千と千尋の神隠し』というRPG
ここではゲーミフィケーションについて説明した後、先挙げた『千と千尋』のストーリー構造とどんなところが関係しているかについて書いていきます。ゲーミフィケーションはその性質からエンタメと離れたシーンで取り扱われますが、今回の記事は『千と千尋』という名作が人々の心をつかんだ理由のひとつとして挙げたいと思います。
ゲーミフィケーションとは
ゲーミフィケーション自体は2010年頃から話題に上がるようになった観点です。広義な意味合いは「ゲームの考え方やデザインといった要素を社会的な活動およびサービスに役立てる」ということ。ビデオゲームなど、これまで親が子に「めっ」と言ってきたものが、現在となっては教育やビジネスの場で役に立てようとされていることが大変面白いですね。
ゲーミフィケーションの観点では、ゲームのこんなところが人を熱狂させたり、購買意欲を高めたり、学習を促したりするというのが示されています。大体の定義は井上明人『ゲーミフィケーション』(2012)が引用されるので、私もそれにあやかりたいと思います。
(1)人に興味・関心を与え、モチベーションを高める
即時フィードバック、レベルアップ、レベルデザイン、不足感、シークレット
(2)人とのつながりでモチベーションを高める
スコアとランキング、バッジと実績、競争、協力、価値観の共有
(3)愛着心を高める
ストーリー、カスタマイズ、イベント、リメンバー、プレリレーションシップ
(4)感情を高める
即時フィードバック、ストーリー、イベント、グラフィカル、驚嘆
RPG
ゲーム(主にRPGに)ついて、「大きなゴールが設定されていて、その道中に細かいタスクが置かれて」います。加えて「タスクをクリアしていけばゴールにたどり着くのに充分なレベルアップが行われる」ように設計されています。
大きなゴール:魔王を倒す、に設定するとします。レベル1からはじまるゲームの勇者では、いきなり魔王を倒すことはできません。それに加えて、勇者は「どうやってレベルアップするか」「なぜレベルアップするのか」が不明瞭です。そこで、細かいタスク:ステージの概念や中ボス、小ボス、おつかいイベントなどが与えられます。小ボスを倒すためにはレベルアップが必須なので、勇者は少量のレベルアップを行います。
魔王を倒したい
→魔王にたどり着くには中ボスを倒す必要がある
→中ボスの前には小ボスがいる
→ダンジョンがある
→勇者は小ボスを倒すためにレベルを上げる
勇者は目前の敵を倒して行くと、自然と魔王を倒すレベルにまで到達するようになっています。これが主にRPG作品の構造とされるものです。
『千と千尋』とゲーミフィケーション
アニメとゲームは同じエンタメジャンルです、勿論アニメ作品でも同様の形式がとられています。
たとえば『ポケモン』シリーズのサトシとピカチュウはポケモンマスター(リーグチャンピオン)を目指すうえで、まずはジムバッジを手に入れるべく頑張ります。ジムバッジを手に入れる過程で、ポケモンが進化したり、新しく技を覚えます。ゲームの販促として封切られたアニメ作品もいまでは大変な人気となっており多くの人々の心を射止めていますね。
アニメ/マンガ単独の作品の例を挙げるなら、世界で最も売れているとギネス記録にもなった『ONE PIECE』では海賊王を目指すための冒険の過程で、仲間を増やしたり、舞台が変わったり、敵を倒すために新しい技やレベルアップを行っていきます。
こういったようにアニメ作品にはゲーム的な要素が含まれているのです。
そのうえで、『千と千尋』では約2時間という上映時間に、先に挙げたような複数のお話・小さなゴールをこなし、大きなゴールにたどり着くまでを行っているという密度が浮かび上がってきます。
エンタメ作品であり、宮崎駿率いるジブリスタッフによる作品ですので、ゲーミフィケーションの(4)の要素だけでも人気の理由としてしかるべきでしょう。しかし、この記事ではゲーム的な色の強い(1)の要素も『千と千尋』に備わっているのではないか、と考えられることがわかりました。さらに、『千と千尋』では湯屋で働くという行動があり、仕事とゲーミフィケーションは昨今大注目されている組み合わせなので、他のアニメ作品と比べても、相性は抜群かもしれませんね。
まとめ
『千と千尋』が人気の理由には物語の構造などの諸要素に、RPGに代表されるようなゲーム的な思考が含まれているからかもしれないということがわかりました。作品の例として『ポケモン』シリーズや『ONE PIECE』なども当てはまると思われますので、アニメ作品をゲーム的な視点から捉えてみるのも面白いかもしれませんね。
余談①、『千と千尋』が長い時間、世代にわたって愛され続けているのは(2)の中の価値観の共有「みんなに愛されている」という通念からきているのも理由のひとつかもしれません。
余談②、ちなみに、『千と千尋』の劇場での上映は2020年8月中は複数の映画館で続いていますので、今回の記事を読んでくださった方は改めて足を運んでみるとよいかもしれません。
まあ今回の記事はともかく、『千と千尋』って普通に名作。
あと、人と話していて「俺、『千と千尋』を映画館で観たことあるから」て言えます。
その点では私は皆さんとひとつ違った次元にいるんですよ(ドヤァ